目次
1. 土地区画整理事業の意味
土地区画整理事業とは、市街地の一定の区域の都市基盤設備と宅地を一体的・総合的に整備することをいう。
既成市街地から新市街地までの多様な地域で、多様な目的に対応した市街地整備が可能である。
2. 土地区画整理事業に関する法律と施行主体
1. 土地区画整理法(以下、「区」という)等が規定している。
2. 施行主体にはつぎのようなものがある。
- ア、個人(区4条以下)
- イ、土地区画整理組合(区14条以下)
- ウ、株式会社(区51条の2以下)
- エ、都道府県、市町村、国(区52条以下)
- オ、都市再生機構等(区71条の2以下)
3. 標準的な土地区画整理事業の流れ
4. 通常タイプと異なる土地区画整理事業
1. 特別法によるもの
- ・被災地市街復興土地区画整理事業
- ・その他
2. 先買型土地区画整理事業(用地の先行買収)
これには、以下の2つのタイプがある。
1. 減価補償対応型
従後の宅地総額が従前のそれより減価する場合、区§109により施行者がその減価額を各地権者に支払う(減価補償金)ことになっている。そこで、施行者が減価補償金相当額により宅地の一部を買収し、公共施設用地に充当して、宅地が減価しないようにする方式のことである。
2. 先行買収型
新市街地開発型の事業等で、計画的な宅地供給等のために用地を先行買収するものである。
UR(都市再生機構)のみならず、組合、公共団体施行においてもみられる。
3. 業務代行方式土地区画整理事業
民間事業者が保留地等の取得を条件に、区画整理組合等からの委託により、土地区画整理事業の相当部分を代行するものである。
5. 事業計画
1. 内容
事業の基本的内容を示す事業計画は、主として、施行地区、設計の概要、事業期間、資金計画から構成される。
2. 資資金計画の概要は下表のとおりである。
資金計画 | |
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収入 | 支出 |
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(注)保留地の設定規模は、事業費の財源、地区内権利者の減歩率に影響を与えるという重大な問題である。個人、組合、会社施行の場合には、原則として、「施行後の宅地価額総額-施行前宅地価額総額」の範囲内で設定すべきである。
6. 減歩
減歩とは、法律上の概念ではないが、土地区画整理事業の中で行われるものであり、換地される宅地の面積が従前の宅地面積より減少することをいう。これには以下の3つの種類がある。
公共減歩
道路公園等の公共施設用地にあてるため、宅地所有者がその土地利用増進に応じて提供するもの。
保留地減歩
事業費に充てるため、宅地所有者がその土地利用増進に応じて提供するもの。
合算減歩
公共減歩と保留地減歩の双方のことをいう。
※事業計画の段階で、この減歩について地権者との話し合い・了承をとることが必要である。
7. 減価補償金
減価補償金とは、区§109により、従前宅地の総額より整理後の宅地総額が減少する場合に各権利者に支払われる補償金のことである。
算式はつぎのとおりである。
しかし、実際には、減価補償金相当額で地区内の宅地を公共施設用地として事前に買収しており、減価補償金交付の例は少ない。個人、組合施行の場合、減価補償金が必要となる場合は、事業採算は困難となる。
8. 建物等の移転、補償
土地区画整理対象地内には従前の建物等が存するので、それらの移転等が必要となるその移転、損失補償等は以下のようになる。
1. 建物等の移転、除却(区77条)
移転先は仮換地先という位置、地積、形状等が特定された土地である。かつ、仮換地の地積は減歩のため通常従前地より小さくなる。
(注)これに対し、道路用地買収のような、公共用地買収の場合の建物等の移転先は不特定である。
2. 補償(区78条)
前途(1)の特色を反映して、補償もつぎのようになる(公共用地買収の場合の土地取得における損失補償とは内容が異なってくる)。
- ア、移転先土地取得のための必要な費用は含まれない。
- イ、建物移工法は仮換地先又は仮移転先を前提して決定される。
- ウ、移転先がみつからないことによる営業廃止補償はまれである。
3. 建物等の移転方法
1. 直接移転、仮移転
仮換地先に直接移転する方法が多い。
仮換地先の使用収益日が別に定められた場合等においては、仮移転先に移転する場合もある。
2. 建物移転工法には、つぎのようなものがある。
- ・曳家工法・・・仮換地先が確保されるので、仮換地先に曳家をするもので、この工法が多い。
- ・再築工法・・・従前地と仮換地先地との間に障害物又は著しい高低差の有る場合等の場合である。この工法も多い。
- ・その他、改造工法、除却工法、復元工法等も考えられる。
3. 移転工法に応じた損失補償金が決定される。
4. 損失補償基準
区画整理事業における損失補償基準は、各施工者が中央用地対策連絡協議会制定の損失補償基準を参考として定めている。
5. 損失補償基準
損失補償金の種類には以下のようなものがある。すなわち、建物等移転料・動産移転料・仮住居等費用・家賃減収補償・借家人補償・改葬補償・祭祀料・移転雑費・営業補償・農業補償・仮換地指定等による補償(区101、99条)等である。
6. 借家人の扱い
区画整理事業地内の建物の借家人は以下のように扱われる。
- 1. 原則は、通常賃借建物が仮換地先へ移転するので、賃借人も仮換地先へ移転し、賃貸貸借が継続することになる。
- 2. 借家人が仮換地先へ移転できない場合、すなわち、従前土地について換地が定められない場合、賃借建物の一部が除却される場合、移転により従前建物の同一性が失われる場合等は、借家人補償が行われる。
9. 土地評価
1. 評価の目的
土地区画整理事業前後の宅地の利用価値増進度を判定する必要があるので、区画整理事業前と事業後の土地の評価が行われる。
2. 評価が必要な場合
以下のような場合である。
1. 保留地設定のため(区96条)
保留地の範囲は以下の算式で定められる。
施工後宅地価額総額-施行前宅地価額総額=保留地設定範囲額
2. 減価補償金算定のため(区109条)
減価補償金は以下の算式で定められる。
施工前後宅地価額総額-施行後前宅地価額総額=減価補償金
3. 換地設計(区89条)における換地地積計算のため
換地の地積計算は、換地照応の原則(99条)に対応するためになされる。
4. 換地に伴う精算金算定のため(区94条)
精算金とは、換地設計で換地を過不足なく配慮することは技術的に困難なので、換地による不均衡を是正するために、徴収又は交付される金銭のことである。
3. 評価方法
区画整理事業地内の土地の評価方法(注)には、つぎの2つの方法がある。
(注)国土交通省都市局市街地整備課監修「区画整理土地評価基準(案)」が実務上利用されている。
1. 路線価式評価法
- ・これによるのが一般的評価方法である。すなわち、標準画地を設定して路線価評価を行い、ついで各画地の評価を行うものである。
- ・路線価は次式で構成される。
路線価=街路係数+接近係数+宅地係数 - ・事業の完成による宅地利用増進率の算定は、通常、路線価指数(1,000単位)で判断する。
2. その他の方法
不動産鑑定評価による方法や、不動産鑑定評価の方法を参考にしつつ施行者が評価する方法もある。
4. 評価基準時点
つぎの3つの時点で評価される。各時点の評価は目的も異なるが、各目的に適合するように、かつ、各評価の整合性を保つように注意する。
1. 事業計画策定時
区画整理前宅地の平均単価及び区画整理後宅地の平均単価を求め、保留地の設定方針又は減価補償金算定に基づく公共用地先行買収の方針を定める。
ここでは、施行前後の宅地の総価額の算定が目的であり、事業による増進を正確に判定する。
2. 換地設計時
区画整理前各筆の価格及び比例率を求め、整理前各筆に対する整理後各筆の権利価格を設定する。
この評価は、事業計画策定時に得られた宅地総価額の増進を、宅地毎又は換地毎に配分するために行われる。
3. 換地処分時
区画整理前各筆の価格、整理後各筆の権利価格及び換地価格を確定し、清算金、減価補償金を確定する。
10. 土地区画整理事業の問題点
区画整理事業における主要な問題点には、以下のようなものがある。
1. 権利者間の合意形成
これについては、次の点が問題となる。
- ア、投資(費用)に見合う利益(便益・効果)が得られるか。
- イ、事業期間が長期化しないか。
- ウ、個々の権利者にとっての事業のメリットを認識できるか。
- エ、既成市街地における権利関係が錯綜化(家主、借地人、借家人の主張の対立)している。これをどう整理・解消するか。
- ・家主・・・・借家、借地の権利関係を解消したい。
- ・借地人、借家人・・・地主と同等の権利主張、生活権・営業権の主張がでてくる。
- ※これらは、都市再開発でも共通して問題となる。
2. 減価補償金
これについては、つぎのような問題点がある。
- ・既成市街地では、区画整理事業完成による宅地価格の増進率が低い。
- ・減価補償による用地買収は、用地が少ない、用地の取得価格が高い、という点があるので、困難さを伴う。
- ・事業費外での用地の先行取得の困難さがある。
3. 換地
・権利者の減歩緩和の要求がでてくる。
4. 建物移転
- ・既存不適格建物の建物移転をどう解決するか。既存不適格建物の扱いについては、建築基準法上の改正がなされている。
- ・一気に移転するのが困難なので、押せ押せ移転による工期の長期化、周辺商業地に対する悪影響が生じうる。
5. 事業費
- ・既成市街地においては、総事業費に占める建物移転等補償金の割合が大きい、という問題がある。これについては、事業計画、換地計画、工事計画を十分に検討して移転計画を立案して対応する。
- ・事業の進捗が円滑に行われないと、事業費が増大し、円滑な資金計画作成が困難となる。
6. 保留地処分
・個人、組合施行においては、保留地処分金が主な事業財源である。借入金も保留地処分金から返済という収支計画が一般である。保留地処分の可否が重要である。
7. 区画整理事業成立のための検討要因と対応策
1. 検討要因としては、以下のようなものがある。
- ・全般的なものとして、着手前の合意形成、事業の長期化の回避、事業後のまちづくり。
- ・従前、従後の道路率
- ・宅地価格増進率
- ・宅地減歩率
- ・保留地処分価格
- ・減価補償による用地買収費
- ・工期(過去の事例からみると、事業計画から事業終了まで、長期間を要する。個人施行の場合は別である)。
- ・建物移転等の補償費
- ・全体事業費
- ・自治体の単独費
- ・権利者要望
2. 対応策
以下のような点が課題である。
- ・密集市街地整備促進事業との合併施行
- ・区域内に再開発事業区の設定と再開発事業との合体
- ・事業地の共同化による高度利用
- ・関係地権者の組織作りと話し合い(これが最も重要である)
- ・地区外への移転妥当権利者に対する用地の売却意向の打診
- ・とび換地に対する権利者の納得
- ・その他事業内容の再検討