目次
(注)本項は国交省作成の「CREガイドライン、その手引き」を参考として作成した。
CRE戦略の意味
CRE(Corporate Real Estate)戦略とは、企業不動産の有効活用によって企業価値最大化の実現を目的として、経営的観点から構築された不動産戦略を意味する。限られた経営資源である不動産を経営に最大限有効活用していこうという発想が「CRE戦略」である。
CRE戦略は、FMすなわちファシリティマネイジメント(施設とその環境)を総合的に企画・管理活用する活動の考え方にもとづいてる。
CRE戦略導入の必要性
1. 企業にとってのCRE戦略導入の意義つぎの点にある。
- 1. 不動産を単なる物理的生産財ではなく、経営資源として捉える。
- 2. 経営形態そのものについても見直す。
- 3. ITを最大限活用。
- 4. 全社的な視点に立った「ガバナンス」、「マネジメント」を重視する。
2. CRE戦略導入の目的とその効果
- 1. 導入の目的
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- (1). 企業不動産の利用価値の向上、経営効率アップ等により企業価値の向上を図る。
- (2). 内部統制の導入、国際会計基準のコンバージェンス(統合化)を含む会計に関する制度改正リスクに対応する。
- 2. 導入の効果
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- (1). 企業にとっての効果 ・・・ コスト削減、キャッシュ・イン・フローの増加、経営リスクの分散化、顧客サービスの向上、コ-ポレ-トブランドの確立、資金調達力アップ、経営の柔軟性・スピードの確保等
- (2). 社会的効果 ・・・ 土地の有効利用促進、地域経済の活性化、適正な地価形成等
3. 企業活動とCRE戦略
- 1. 企業の社会的責任(CSR)とCRE戦略
CRE戦略を通じてCSRを果たす。 - 2. 会社法制とCRE戦略
法改正により取締役の善管注意義務の一である内部統制システム構築義務が重要。 - 3. 不動産市場の変化とCRE戦略
不動産の様々なリスクに適応したCRE戦略を採ることが重要。 - 4. 不動産M&AとCRE戦略
不動産から適正な収益を生み出していない場合にはM&Aの標的になりうる。 (注) 不動産M&Aとは、不動産を所有する会社そのものを(主として、株式の取得で)取得することにより、不動産を取得すること。 - 5. 中小企業の事業承継・資産承継とCRE戦略
円滑な事業承継を行うためには、CRE戦略を実践し、個人資産を法人所有に移転するなどして事業用不動産を適切に所有・管理することが必要。 - 6. 企業の税制とCRE戦略
CRE戦略実践に伴い生じるタックスコストは企業価値に大きな影響を及ぼすので、CRE戦略の策定時に的確なタックスプランニングが重要。 - 7. 不動産に関するコストとCRE戦略
CRE戦略に基づく、計画的かつ適切な対応を推進することにより、コストの適正化や機会損失の回避、リスクへの対応の実現を図ることが必要。
CRE戦略における企業会計制度・会社法制への対応
1. 内部統制環境の整備
- 1. 会社法、金融商品取引法と内部統制への取組に、会社法では、内部統制(経営トップの意思のもと企業活動を有機的一体的なものとして規律を与えること)システムの構築内容の開示が必要とされたことから、多くのステークホルダー(株主、債権者、従業員、取引先等)からの評価にさらされることにより、各業種ごとにデファクトスタンダード(結果として事実上標準化した基準のこと)の形成が要請される。金商法では、正確な財務情報の開示を担保するために、内部統制の最低水準が定められており、会社法と異なり自由な制度設計は許されていない。CRE戦略遂行にあたっては、取締役会で基本的枠組みを決定し、業績評価指標を定め、業務担当取締役を決定しておく。
- 2. 金融商品取引法における内部統制報告制度への対応
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- (1). 不動産の取得から処分に至るまでの適切な意思決定を行うこと、
- (2). 不動産関する情報を社内で集約化・共有化する、
- こうした取り組みは、業務効率向上や企業業績向上といった内部統制の目的にも資する。
2. 国際会計基準への対応
国際会計基準とのコンバージェンス(統合)は企業の説明責任の厳格化である。国際会計基準に対応するためには、不動産の収益性やキャッシュ・フローを重視するとともに、適切な指標を設定し、定期的にモニタリング(予め設定しておいた計画、目標、指示についてその進捗状態を随時チェックすること)をすることが不可欠。上場会社でなくともこれは同様であり、CRE戦略で求められる不動産の利活用を通じた企業価値向上という考えは、国際会計基準の考え方の中に存在する。
企業におけるCRE戦略実施体制
1. 組織体制の検討
- 1. CRE担当部門は、トップマネジメントに直結した全社横断型マネジメント組織が望ましい。
- 2. 業務の効率性・客観性、ノウハウの高度化等の観点から既存組織の再編と併せて、アウトソーシングの活用を検討することも重要。
- 3. アウトソ-シングが考えられる不動産関連業務
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- (1). アセットマネジメント
アセットマネジメントとは、不動産管理に係る業務の一つで、どの資産を投資対象とするかの決定、資産の売買・運用などを行うことをいう。すなわち、投資計画の策定、不動産の物的状況・権利関係等の精査、不動産の売買の意思決定、管理会社の監視及び収益を最大化するための方策の検討・実施等を行う。具体的には、アセットマネジメント会社は、複数の不動産を組み合わせて運用するためのポートフォリオを検討し、また必要に応じて不動産の入れ替えを行うことで、ポートフォリオの収益が最大となるような不動産運用を行うことを主な目的とする。 - (2). プロパティマネジメント
プロパティマネジメントとは、不動産管理に係る業務の一つで、不動産の所有者に代わって、建物の日常維持保守、テナント営業、賃貸借条件交渉、クレーム対応、入出金管理等の業務を行うことをいう。すなわち、単体の不動産を対象として、不動産賃貸事業の効率化・高収益化を図ることを目的とすものである。より具体的には、建物の清掃・警備・保守点検等に伴う具体的な日常ビルマネジメント業務、テナント等からのクレームに対する対応や入出金管理を行う。さらに、重要な業務として、テナントの賃貸者契約の管理、空室が発生した場合のテナント誘致などを行うことによって、当該不動産のキャッシュフローを増加することが挙げられる。最近では、賃貸不動産に対する大幅な需要増が見込めない状況下において、テナントの誘致活動が活発に行われていること、また、賃料の大幅な上昇が見込めない状況下において、キャッシュフローを改善しなければならないこと等から、プロパティマネジメントの重要性は高まっている。
- (1). アセットマネジメント
2. CRE情報の整備
経営戦略に基づいた全社的な企業不動産に関する意思決定を行っていくためには、情報の一元管理が必要。
3. CRE戦略検証方法の確立
CRE戦略の実施結果を適切にモニタリングし、ベンチマーキングに基づく同業他社間との比較などを行う。
4. リスク管理体制の構築
不動産はリスク資産であるので、リスクを把握・制御する合理的な管理体制構築が必要。自社もしくは連結グループ企業内の不動産にどの様なリスクが内包されているかを網羅的に調査・把握し、それぞれのリスクを評価する事から着手する。
5. ITの活用推進
ITの導入により、各不動産情報を一元的に管理し、必要なデ-タをタイムリーに抽出、分析できる情報システムを整備する。しかし、情報システムの導入費用は多額なので、現場ニ-ズを踏まえた最適なシステムを構築する。
標準的CREマネジメントの作業項目
5つの作業項目(Research-Planning-Practice-Review-Researchへのフィードバック)の循環モデル(サイクル)である。
1. Reserch(リサーチ)
- 1. CREフレームワークの構築
CREフレームワークとは、CREマネジメントを正しいルールに則り、実践するための枠組みであり、CREマネジメントを行う上での統制方法(規則・規約等)を規定する概念であり、継続運用、定期的改善を前提とする。 - 2. CRE情報の棚卸
自社の不動産について、物理的・権利的・経済的調査を行い、CREに関する全体像を把握する。これを行うにあたっては、各不動産を自社の経営戦略や財務戦略の視点から、有効な各種分析が可能となるよう、現状と将来の位置付けを検討しながら行う。
2. Planning(プランニング)
Reserchで得たCRE関連情報に関して、「ポジショニング分析」、「個別不動産分析」、「CRE最適化シミュレーションの実行」、「CRE最適化施策後の財務影響分析」など様々な観点からの分析を行い、経営者層が不動産に関する重要な意思決定を下す際の判断支援材料を提供する。
3. Practice(プラクティス)
Planningでまとめたレポート「CRE最適化施策書」に基づいて、経営者層の判断を踏まえてアクションプラン「CRE最適化施術書」を作成し、CRE最適化を実行する。最適化の具体的施策は、
- 1. 継続所有・使用(賃貸、借用、アウトソ-スを含む)
- 2. 購入
- 3. 売却(証券化、セ-ル&リ-スバックを含む)
- の3つに分かれる。証券化手法の活用においては、オフバランス要件に注意し、資産の譲渡、金融取引のいずれに該当するかを確認する。
4. Review(レビュー)
Practiceのアクションプランと実行情報の比較を行い、CRE戦略が予定されたとおり適切に実行されているか否かのレビューを行う。
5. Reserch(リサーチ)へのフィードバック(Act) = 完成
Review(レビュー)におけるモニタリング結果を、Reserch(リサーチ)へフィードバックの上、Act(改善)を施すことで、CREマネジメントサイクルは完成する。
CRE戦略と不動産分析
1. CRE戦略における不動産評価・分析の必要性
CRE戦略においては、各不動産個別の評価に加え、当該企業内における各資産の相対的な位置関係を把握することが必要。
2. 投資価値の比較によるCRE分析
- 1. CRE戦略においては、不動産を利用して自社の事業を行った場合に得られるであろう価値である使用価値を求め、当該使用価値と市場価値との比較を行って、投資に対する意思を決定することが重要。
- 2. 使用価値と市場価値の比較
- 不動産を取得し自己使用する場合には、不動産の使用価値と市場価値を比較し、使用価値が市場価値を上回っていることが企業価値向上へとつながる。
- 「使用価値」・・・ 資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値。割引率には、資本コストを使用。
- 「市場価値」・・・ 不動産については、株式などのような市場が存在しないため、合理的に算定された額が、公正な評価額となる。
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- ア. 使用価値 < 市場価値・・・ 現状維持
- イ. 使用価値 = 市場価値・・・ 現状維持だが、コスト削減検討必要
- ウ. 使用価値 > 市場価値・・・ 売却または他用途での有効活用
- 3. 使用価値を求める方法
使用によって見込まれるキャッシュフロ-を現在価値に割り引くことで求める(DCF法の採用)。割引率は当該企業の資本コストが原則。 - 4. 市場価値を求める評価
合理的に算定された額とは「不動産鑑定評価基準」に基づいて算定された鑑定評価額が該当する。また、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を利用することも考えられる。不動産鑑定評価の依頼または財務担当者で対応。 - 5. 不動産有効活用
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- (1). CRE戦略における不動産有効活用
CRE戦略における不動産の有効活用は安易に遊休地の活用に走るのではなく、保有している経営資源としての資産を全社的視点でその活用度合を評価して有効活用を検討する。 - (2). ポートフォリオによる施設資産戦略
個々の施設をどのように位置づけて、処遇・処理するか方針を立てるためには、ポートフォリオによる施設資産戦略が有効である。 - (3). 有効活用方式
つぎのものが一般的であるが、それぞれ特徴、長所・短所があるので、それらの特徴を考慮して、方法を選択する。 -
- 「等価交換方式」は土地所有権と建物所有権を交換するので、資金負担は発生しない。
- 「土地信託方式」は信託銀行が事業者となって行うため、資金手当は不要。
- 「事業受託方式」は土地所有者が自ら事業を行うため、資金が必要となる。他に、土地の所有権を保持したまま活用する方法として、定期借地方式もある。
- (1). CRE戦略における不動産有効活用
3. 所有・賃借の性質の比較によるCRE所有形態の選択
- 1. 企業不動産については、ファシリティコスト分析による定量的観点、自社の事業戦略との関連における定性的観点、企業の財務状況、不動産市場の状況等を総合的に判断して、不動産を所有するか賃借するかの長所・短所を整理し、物件個々の条件に即した適切な所有形態を選択することが重要である。
- 2. ファシリティコスト
- ア. 意義
ファシリティコストは、所有あるいは賃借して自社の事業のために使用する施設の維持・運用・管理に、直接または間接に要する費用のことである。ファシリティコストはライフサイクルでコストを認識した場合、最も削減の効果が発揮される部分であり、ライフサイクルコストを適切に管理することは、キャッシュフローの改善や資産価値の向上にもつながり(運用管理期間中に発生するコストは、初期建設費の5倍以上に及ぶこともある)、CRE戦略の実践にあたって重要である。 - イ. 分類
ファシリティコストは、維持費、運営費、管理費から構成される。- 維持費:機能を一定水準に維持するための費用 ・・・ 保有費、特別経費、保全費等
- 保有費:所有あるいは使用に伴う費用 ・・・ 賃借料、租税公課、保険料等
- 特別経費:支出は伴わないが、計算上考慮する必要のある費用 ・・・ 減価償却費、資本コスト等
- 保全費:機能を一定水準に維持するための費用 ・・・ 維持費、環境整備費等
- 運営費:施設を運営するための費用 ・・・ 水道光熱費、運用費、セキュリティ費等
- 管理費:施設を管理するための費用 ・・・ 統括管理費等
- ウ. 算定
ファシリティコストの算定は、前記のように機能別に分類する必要がある。しかし、それが困難な場合は、簡便法として、面積や人数に対する単価で算出することもできる。 - エ. 適正化
ファシリティコストは大きく分けると、A:ファシリティ保有費や特別経費のように、保有している限り一定額費用が発生するものと、B:ファシリティ保全費や運営費、管理費のように運用で削減できるものとがある。前者Aについては、資産を有効活用し、無駄な保有資産をオフバランスすることで、毎年一定額発生する税金と減価償却費の適正化を図る必要がある。また、後者Bについては、品質を考慮したうえでの外部委託等の仕様の見直しによる委託費の低減、省エネルギー対策による水道光熱費の低減等により適正化を図ることができる。また、必要に応じて、アウトソーシングやコンサルティングによる外部のノウハウを活用して低減することも一つの手段である。
- ア. 意義
- 3. ライフサイクルコスト
- ア. 意義
ライフサイクルコストとは、取得費・設計・建設費などの初期投資、施設の運用開始からかかるファシリティコスト、改修のための投資や解体・処分の費用など建物の建築から解体までに必要な費用のことである。国土交通省官庁営繕部モデル(6,000㎡、65年間)によるLCCの試算例では、LCCの初期投資の割合は16.5%しかなく、運営維持費用は初期建設費の5倍以上に及ぶこともある。 - イ. 構成
ライフサイクルコストは、企画段階から建設、運用管理、解体まで、それぞれのフェーズで係るコストを、企画設計コスト、建設コスト、運用管理コスト、解体再利用コストに分類できる。
- 企画設計コスト
建設企画、現地調査、用地取得、設計、環境管理、効果分析、設計支援に関するコスト - 建設コスト
工事契約、建設工事、工事管理、環境対策、施工検査、建設支援に関するコスト - 運用管理コスト
保全、修繕、改善、運用、一般監理、運用支援に関するコスト - 解体再利用コスト
解体、再利用・処分、環境対策コスト
- 企画設計コスト
- ア. 意義
4. 財務指標を用いたCRE評価
- 1. 企業価値と資産効率の関係を示す経営指標を数値化し、これを目標設定とすることは、CRE戦略を策定・実施する上で有効である。また、他企業を分析し、業界・業種別にこれらの指標の推移・動向を検討することがCRE戦略上のベンチマークとして活用することも考えられる。
- 2. 経営指標の例
- ROA(純資産利益率)=純利益÷総資産(株主資本+負債)
- ROIC(投下資本利益率)=NOPLAT{営業利益率×(1-税率(実効税率40%程度))}÷投資資本(固定資産+運転資金+現預金) (注)NOPLATとは、みなし税引き後利益のことで、株主と債権者に帰属する企業が生み出した付加価値を簡便に計算したものである。
- PBR(株価純資産倍率)=株価÷一株当り純資産額 ※株価:上場企業の場合は取引市場で取引されてる値 ※ 一株当り純資産額:純資産÷発行済株式総数 ※純資産:B/S上の純資産の部の合計値
- 固定資産回転率=年間売上高÷固定資産平均有り高
5. ファシリティコスト分析によるCRE評価
CRE戦略を実践する上で、売上に占めるファシリティコスト、支出に占めるファシリティコスト、利益と資産額、施設効率、空間価値、配置などによる分析を行うことが重要。
・FM(ファシリティマネジメント)の究極目標は、次の算式値の向上
6. CRE戦略と税務シミュレーション
CRE戦略を立案・実行する上で、重要と思われる不動産取引(売却、組織再編による移転取引、リース取引)についての法人税制に関して理解しておく。
ベンチマ-ク
1. 不動産投資のベンチマーク
不動産投資を行う場合については、当該不動産の運用利回りを、市場平均利回りや企業の加重平均資本コストと比べることによって投資の有効性が判定され、企業価値向上に役立っているか否かのベンチマークとなる。
- 1. 「市場平均利回り」については、(財)日本不動産研究所が公表している「不動産投資家調査」のデ-タが参考となる。当該調査は、期待利回りを中心として投資スタンスや今後の賃料見通しなどの、投資家等市場参加者の期待値に関する回答を集計したものである。
- 2. 「加重平均資本コスト(Weighted Average Capital Cost, WACC)」とは、借入資本コストと自己資本コストについて、借入資本と自己資本の比率で加重平均したもので、具体的には以下の算式で算定される。
-
- 資本コストの計算
資本コスト = (D × rD(1-T) + E+rE) / (D+E)
D:借入資本額
rD:借入資本コスト(%)
E:自己資本額
rE:自己資本コスト(%)
T:実効税率(%)
上記の算式のうち、自己資本コスト(rE)は、現在、一般に普及しているモデルである資本資産価格算定モデルによって算定される。 - 自己資本コストの計算(CAPM理論)
自己資本コスト (rE) = Rf + β(Rm - Rf)
Rf:リスクフリー・レート
Rm:株式市場の期待収益率
Rm-Rf:市場のリスク・プレミアム =株式リスク・プレミアム
β:ベータ値
上記の算式のうち、リスクフリー・レートとしては、長期国債の平均利回りを用いるのが一般的である。
また、株主は、他の債権者に比べ利益の帰属が劣後し、投資に対してリスクを負っているためリスクに見合った見返り(リスク・プレミアム)を期待する。上記算式では、β(Rm-Rf)に当たる部分である。このうち(Rm-Rf)は、株式市場全体のリスク・プレミアムを指しており、株式を所有する場合のリスクを表している。β値は、個別の企業ごとのリスクを計算するためのものであり、β値に市場全体のリスク・プレミアムを乗じることで個別銘柄に株式投資する際のリスク・プレミアムが表される。
- 資本コストの計算
2. 自社利用不動産のベンチマーク
- 1. 投資意思決定
- (1). 正味現在価値法
正味現在価値(NPV:Net Present Value)法は、投資からもたらされる年々のキャッシュフローに割引率を用いて計算した現在価値(PV)を合計したものから、投資額の現在価値を控除することによって NPVを計算し、これが正となる(投資効果の現在価値>投資の現在価値)投資案を採択する方法である。 - (2). 内部収益率法
内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)法は、投資によって生ずる年々のキャッシュフローの現在価値合計と、投資の現在価値合計とがちょうど等しくなる割引率、すなわち、NPVがゼロとなるような割引率(i)を算出し、これが目標利益率を上回る投資案を採択する方法である。
IRR ≧ 目標収益率 →投資可
IRR < 目標収益率 →投資不可
・ 算式はつぎのとおり。
投資案に順位をつける必要がある場合には、IRRの大きい投資案が上位にランクされる。
回収期間法
回収期間(PBP:Pay Back Period)法とは、時間価値を考慮せず、投資からもたらされるキャッシュフローによって投資額を回収するのに要する期間を求め、それが基準となる回収期間より短いか否かによって、投資案を評価しようとする方法である。最近では、貨幣の時間価値を考慮した「割引回収期間法」という方法もある。投資案を順位づける必要がある場合には、回収期間は短いほどよい。 - (3). 投下資本利益率法
投下資本利益率(ROI:Return On Investment)法は時間価値を考慮せずに、投資によって生ずる年々の平均現金流入額を分子とし、投資総額もしくは平均投資額を分母とする比率である。分子としてキャッシュフローでなく会計上の利益を用いていることも多い。 投資案の投資利益率を企業の目標利益率と比較し、それよりも大きければ投資案を採択すべしとする方法である。投資案を順位づける必要がある場合には、利益率の大きい投資案が上位にランクされる。
- (1). 正味現在価値法
- 2. 所有と賃貸(リース)との比較によるCRE利用形態の選択・・・・企業が不動産を調達する場合、所有か賃貸(リース)いずれとすべきかの比較
- ア.リ-スの2つのタイプ
- ファイナンスリ-ス
リ-ス会社が、購入資金を貸付ける代わりに、ユ-ザ-に代わって機械・設備を購入して貸付ける方法。我が国のリ-スの主流。 - オペレ-ティングリ-ス
ファイナンスリ-ス以外のリ-スの総称。前者との違いは、賃貸対象が不特定多数であること、ユ-ザ-側が解約できる点にある。
- ファイナンスリ-ス
- イ.財務諸表への影響
- 所有の場合
・B/Sへの影響 ・・・ 不動産、対応する借入金が企業のBSに計上される。
・P/Lへの影響 ・・・ 償却資産について減価償却費が計上され、借入金に対する支払利息が計上される。 - オペレーティングリースの場合
・B/Sへの影響 ・・・ B/Sにリースに関する資産、負債は計上されない。
・P/Lへの影響 ・・・ リース料を支払ったときに、リース料が費用として計上される。
リース取引がオペレーティングリース取引の場合には、B/S上、リース資産リース負債は計上されないため、取得した場合と比べ借手の財務指標を向上させる可能性がある。
- 所有の場合
- ア.リ-スの2つのタイプ
ファイナンスとしての不動産証券化
流動化型不動産証券化においては、資産を所有するものが、特定の資産の所有を目的とする別の主体(ビークル)を設立し、そこに当該資産を移転してその資産の生み出す将来のキャッシュフローを原資に資金調達が行われる。不動産証券化は、CRE戦略を実践していく過程で、企業が取り得る行動の新しくて有効な選択肢の一つとして位置付けることができる。 具体的には、
- 1. 企業が遊休不動産や企業価値への貢献が低い不動産を売却する場合、
- 2. 使用している事業用不動産について継続的な関与を維持しながらオフバランスする場合、
- 3. 新しい事業を行う際に資金を調達する場合
などに不動産証券化の利用が考えられる。